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大阪高等裁判所 平成6年(ラ)275号 決定 1995年6月12日

抗告人 佐藤隆市

主文

原審判を取り消す。

抗告人の名「隆市」を「隆一」に変更することを許可する。

理由

第一  本件抗告の趣旨及び理由

別紙即時抗告申立書記載のとおりである。

第二  当裁判所の判断

1  一 一件記録と抗告人の審問の結果によれば、次の事実が認められる。

(1)  抗告人は、昭和28年3月18日生れで、「隆一」の名で出生届がなされ、昭和47年4月に○○○に入社するまで本籍地に居住していた。

(2)  本籍地の近くにいた抗告人の学校の先輩が抗告人と同姓同名であって、互いに間違い電話や郵便物の誤配が多かったところから、かねて先輩や郵便局から苦情をいわれていた。

(3)  抗告人は、昭和51年1月に橿原市に移転したが、すでに前記先輩が同市に移転していたため、また間違い電話等の支障が起こった。

(4)  そこで、抗告人は、先輩に対する遠慮と父の勧めに従い、奈良家庭裁判所吉野出張所で「隆市」と改名する許可の審判を受け、同年同月27日橿原市長にその届出をした。

(5)  しかし、抗告人は、元の名に愛着があったところから、その後も「隆一」を通称として使用し続け、家族・友人・職場の人々からも「隆一」と呼ばれ、人事管理上の必要から正式に本名を使うべき場合は別として、職場で使用する書類にも通称を用いることが多く、上司からも元の「隆一」への改名手続をとることを望まれていた。

(6)  抗告人は、昭和53年8月に同県香芝市に移転し、平成5年5月24日に再び橿原市に戻ってきたが、前記先輩はこれより先に同県大和高田市に移転していて、現在では同人との間に前記のような混同による支障が生ずるおそれはない。

二 このように、抗告人は、入社以来継続して約23年(改名後の通称使用期間だけでも約19年)以上勤務先で「隆一」として取り扱われ、社会においても引き続き「隆一」を通称として使用し、かつ、社会一般からも「隆一」と呼ばれてきているのであるから、本名である「隆市」を使用すれば却って抗告人の社会生活上の不便と周囲の混乱がもたらされることが予想できる。

三 そして、一件記録を精査しても、他に本件申立てを却下すべき事情を認めるに足りる証拠は見当たらない。

四 そうすると、抗告人の本件申立てについては、改名許可の要件である戸籍法107条の2所定の「正当な事由」を具備しているものと認めてこれを許可するのが相当である。

2  よって、本件申立てを却下した原審判は不当であり、本件抗告は理由があるから、特別家事審判規則1条、家事審判規則19条2項にしたがい、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 辰巳和男 野村利夫)

別紙 即時抗告申立書〈省略〉

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